シリーズ 防災を考える
-本連載を始めるにあたって-
日本における災害対策・対応のマネジメントを考えるために
我が国は豊かな自然に恵まれている反面、地震・津波、台風、噴火、洪水などに代表される自然災害が多発する国でもあります。そのため、毎年のように地震や台風の影響による洪水や土砂災害を契機とした被害に対して、いかにして個人や企業・地域社会の被害を防止し、あるいは致命的なものにせず迅速に回復させるかが重要な課題として挙げられています。
しかしながら、行政が係わる個人の生命、身体および財産を災害から保護するための法整備は拡充されている一方で、企業・地域社会・個人については自己責任に委ねられている状況です。

また、日本では自然災害からのダメージを減らす事前の備えを充実化していますが、世界の主流(仙台防災枠組2015-2030)は被災後の復興活動という事後の対策に重みを置いています(本サイト連載記事「国際標準化の経営学」第13回-日本の誇る防災分野のビジネスとISO活動-参照)。

こうしたなか、企業の皆さまに「事業基盤の強化に必要な災害対策・対応のマネジメントとは何か」を考えていただくきっかけとして、今回(2022年11月)から新たな連載「シリーズ 防災を考える」を企画しました。本連載では、災害および防災への取り組み方について、防災ISO規格づくりを牽引している今村文彦教授(スマートコミュニティ防災に関する国内委員会委員長)に執筆をお願いしました。

本連載を始めるにあたって

我が国は自然災害の多発国であり,過去多くの被害を受ける中でも,経験や教訓を活かして防災文化を形成してきた.一方で,近年の自然災害では,地球規模気候変動の進展や我々自身の社会構造の変化に伴い被害を変化さらには進化させており,新たな対応やシステムが必要とされている.

本シリーズは,東日本大震災を中心に近年の災害を振り返り,東北大学災害科学国際研究所*1等で得られた知見などを紹介させていただき,災害および防災について広く考えていただくことを目的としている.4つのテーマ(以下,目次参照)で構成する予定であり,まず,防災および災害に関する基本を紹介し,我が国の法律や防災対策・対応の考え方,さらに防災文化について紹介したい.次に,2011年に発生した我が国最大規模の複合災害であった東日本大震災を事例に経験と教訓を紹介し,国内だけでなく海外でも重要課題である防災・減災について2015年第3回国連防災世界会議の成果文書として採択された「仙台防災枠組2015-2030」などの世界アジェンダについて触れたい.続いて,地域防災を取り上げ,災害に強いまちづくりや,コミュニティー単位での防災計画や対応,防災行政の整備および推進状況,地域防災を構成するステークホルダーの役割と現状を紹介したい.また,自治体や企業における業務継続計画の重要性は益々高まっており,その現状と課題を整理したい.最後に,本シリーズのバックボーンになる災害科学の考えと役割,そして実践的な防災学を目指す動きについて取り上げたい.

 

 

「シリーズ防災を考える」目次
1.防災および災害に関する基本
 (1)防災の考え方と法改正の意義
    災害と防災の定義,災害関係の法律の改正
 (2)4つのフェーズに分かれる災害対応
    災害対応サイクルについて,災害対応サイクルを意識した事前復興の考え
 (3)災害の3要素;誘因,素因,防災力
    災害の誘因と素因について,社会での対応力‐被害抑止力および被害軽減力,
    ハザードマップの活用を
 (4)災害文化と防災文化とその継承
    東日本大震災3月11日を迎えるに当たって,災害文化と防災文化を考える,
    経験と教訓を将来に伝承していく‐被災地沿岸での活動,防災啓発や教育への利用へ

2.東日本大震災と世界アジェンダ
 (1)複合災害と新たな津波被害像
    連鎖する複合災害,津波火災,黒い津波と都市型津波
 (2)第3回国連防災世界会議と仙台防災枠組
    2015年の国連の動き,国連防災世界会議について,
    仙台防災枠組とは?‐4つの優先行動と7つのグローバル指標,
    今年5月に実施される中間評価に向けて

3.地域防災と計画
 (1)総合防災対策(ハード・ソフト・まちづくり)
    ハード対策の役割と課題,ソフト対策の現状と課題,
    災害に強いまちづくり―ハード対策とソフト対策の融合
 (2)地区防災計画
    前回までの復習,「地区防災計画制度」創設の背景と課題,
    自主的な活動を目指す地区防災計画,地区防災計画モデルの取り組み事例の紹介,
    さらなる地区防災計画の発展を目指し,
    【コラム】内閣府の取り組みーみんなでつくる地区防災計画の支援
 (3)防災行政と業務継続計画
    令和6年能登半島地震,防災行政について,防災計画について,業務継続計画
 (4)「自助・共助・公助」の枠組みの中で
    はじめに,「自助・共助・公助」の枠組みの中で,
    地域防災における行政の役割-「公助」,
    地域防災におけるボランティア・サードセクター・企業の役割-「新しい共助」,
    地域防災における住民-自助の現状,まとめ,
    【コラム】中小企業BCP策定運用指針(第2版の紹介)

4.災害科学の役割
 レジリエンス社会の構築に向けて
    はじめに,東日本大震災以前の取り組み,東日本大震災の発生を受けて,
    震災アーカイブ「みちのく震録伝」の構築,災害時の8つの「生きる力」,
    さらに実践的な防災学へ,最後に



著者プロフィール
今村 文彦東北大学災害科学国際研究所 教授
1989年東北大学大学院工学研究科博士後期課程修了。同大学院附属災害制御研究センター助教授、同教授を経て、2014年より現職.主な専門分野は津波工学(津波防災・減災技術開発)、自然災害科学。東日本大震災復興構想会議検討部会、中央防災会議東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会などのメンバー、一般財団法人3.11 推進機構代表理事。主な受賞、NHK放送文化賞(2014年)、防災功労者内閣総理大臣表彰(2016年)、濱口梧陵国際賞受賞(2020年)。
著書:「東日本大震災を分析する」(共編) 明石書店(2013年刊)、「逆流する津波-河川津波のメカニズム・脅威と防災-」(単著) 成山堂書店 (2020年刊)
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