シリーズ 防災を考える(第1回)
-防災と災害に関する基本(1)-
防災の考え方と法改正の意義
今村文彦氏(東北大学災害科学国際研究所 所長)による連載記事「シリーズ 防災を考える」の第1回は、「防災と災害に関する基本(1)防災の考え方と法改正の意義」です。災害対策基本法の定義に基づき、災害を引き起こす要素への対応として防災を理解することや、我が国の幾多の災害経験から災害対応のあり方がその都度見直され、法改正されていることについて解説いただきました。
サマリー
  • 災害は自然現象や大規模な火事等ではなく、「これらの原因(誘因)または外力(hazard)により生じる影響や被害(damage)のこと」である。
  • 防災は「災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図ることでその被害を軽減すること」であるが、事前防災に加えて発災後の減災の役割も含んでおり「総合防災」として理解するとよい。
  • 我が国では多様な災害が発生し、その姿が変化するだけでなく進化しているため、当時の経験や教訓を次の災害に備えるために、法律が都度改正されている。

災害と防災の定義

防災に関する本シリーズを始めるにあたり,第1回のテーマを災害(disaster)と防災(disaster risk reduction)についての定義としたい.日常での会話や報道で使われている言葉であるので,当然よく理解されていると思われるが,改めて定義を理解し整理することは大切である.社会生活の中で重要な言葉であるため,当然,法律の中でも謳われている.代表的な災害対策基本法第2条第1号では,災害は「暴風,竜巻,豪雨,豪雪,洪水,崖崩れ,土石流,高潮,地震,津波,噴火,地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害」と規定されている.重要な事として,災害は自然現象や大規模な火事等ではなく,これらの原因(誘因)または外力(hazard)により生じる影響や被害(damage)のことである.
ここで,その被害は,原因や外力だけでなく,地域の規模や特性・取り組みなどにより違いや差がでていることは容易に想像できる.従って,多くの定義の中で,災害は以下の3つの要素で構成される.

 (災害)=誘因(ハザード性)×素因(暴露性,脆弱性)÷防災力(予防力・対応力・回復力)

これらの3要素を整理すると,理学的な予測力,工学的な予防力である防災・減災技術(耐震性,耐波性)や土地利用,社会科学的な対応力や回復力に,それぞれに関連すると考えることができる.この関係を理解すれば,災害をどのように防止し低減していくかの戦略や方法,可能な資源,分担・責任(全体としてはマネジメント)を考え検討しやすくなるのではないかと思われる.
さらに,災害対策基本法に示された防災とは,「災害を未然に防止し,災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ,及び災害の復旧を図ることでその被害を軽減することができる」とあるので,先ほどの3つの要素(力)と対応させ,それぞれ如何に向上させるかが重要であることが理解できるであろう.例えば,各地域での外力を理学的な調査や解析で明らかにし,それが発生した場合にどのような影響や被害になるかを工学的に評価し,それを防止するシステムや技術の導入,または,外力を避ける地域(住み方)づくりが大切になる.これらの外力が予防力を上回った場合には,人間や社会において被害の軽減のための対応や復旧さらには復興が必要となる.
なお,災害対策基本法でいうと防災は事前防災に加えて発災後の減災の役割も含んでおり「総合防災」として理解するとよい.事前防災は未然に防ぎ被害をゼロにすることであるが,その抑止が難しい場合には被害を最小限におさえることが減災の考え方である.本シリーズでは,この考え方の下に,過去から現在までにどのような取り組みがされてきたのか,特に,東日本大震災の事例を紹介し,事前の取り組み,当時の対応,そして課題を紹介したい.その後,国内外でも様々な災害が発生しており,将来へはどのような課題と解決があるのかを考えていきたい.

 

災害関係の法律の改正

我が国の災害対応の歴史をたどると,幾多の災害の経験を踏まえて,その都度災害対応のあり方を見直し,災害対策基本法等に反映させていった.特に大規模災害を背景として改正が行われており,阪神淡路大震災,広島豪雨,中越地震,東日本大震災,御嶽山噴火,熊本地震,令和元年台風第19号等を踏まえた改正等がある.平成7年6月と12月に阪神・淡路大震災を踏まえ新たな防災上の課題への対応として,ボランティアの活動環境の整備や海外からの支援に対する対応,災害弱者に対する防災上の配慮について,国及び地方公共団体がその実施に努めるべきことを法律上明らかにすることを求めた.さらに,災害相互支援基金の設立,全国の地方公共団体が毎年度一定の額を拠出して積み立てておき,有事に際して被災者支援を行う基金の制度の創設を検討するよう求めた.また,東日本大震災を踏まえた改正については,平成24年12月に1)大規模広域な災害に対する即応力の強化,2)大規模広域な災害時における被災者対応の改善,3)教訓伝承,防災教育の強化や多様な主体の参画による地域の防災力の向上等を内容とした法の改正が行われた.特に,3)については,各防災機関において防災教育を行うことを努力義務化し地域防災計画に多様な意見を反映できるよう,地方防災会議の委員として自主防災組織を構成する者又は学識経験のある者を追加する(法第15条第5項第8号)等の改正が行われた.さらには,平成25年6月には再度改正され,1)大規模広域な災害に対する即応力の強化等,2)住民等の円滑かつ安全な避難の確保,3)被災者保護対策の改善,4)平素からの防災への取り組みの強化が行われた.このように我が国では多様な災害が発生し,その姿が変化するだけでなく進化しているため,当時の経験や教訓を次の災害に備えるために,法律が改定されていることを是非,知っていただきたい.

  

参考文献

総務省消防庁「災害対策基本法の制定から現在までの主な改正の経緯について」
https://www.fdma.go.jp/publication/ugoki/items/rei_0404_04.pdf



著者プロフィール
今村 文彦東北大学災害科学国際研究所 所長
1989年東北大学大学院工学研究科博士後期課程修了。同大学院附属災害制御研究センター助教授、同教授を経て、2014年より現職.主な専門分野は津波工学(津波防災・減災技術開発)、自然災害科学。東日本大震災復興構想会議検討部会、中央防災会議東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会などのメンバー、一般財団法人3.11 推進機構代表理事。主な受賞、NHK放送文化賞(2014年)、防災功労者内閣総理大臣表彰(2016年)、濱口梧陵国際賞受賞(2020年)。
著書:「東日本大震災を分析する」(共編) 明石書店(2013年刊)、「逆流する津波-河川津波のメカニズム・脅威と防災-」(単著) 成山堂書店 (2020年刊)
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