我が国は自然災害の多発国であり,過去多くの被害を受ける中でも,経験や教訓を活かして防災文化を形成してきた.一方で,近年の自然災害では,地球規模気候変動の進展や我々自身の社会構造の変化に伴い被害を変化さらには進化させており,新たな対応やシステムが必要とされている.
本シリーズは,東日本大震災を中心に近年の災害を振り返り,東北大学災害科学国際研究所*1等で得られた知見などを紹介させていただき,災害および防災について広く考えていただくことを目的としている.5つの要素(以下,目次参照)で構成する予定であり,まず,防災および災害に関する基本を紹介し,我が国の法律や防災対策・対応の考え方,さらに防災文化について紹介したい.次に,2011年に発生した我が国最大規模の複合災害であった東日本大震災を事例に経験と教訓を紹介し,国内だけでなく海外でも重要課題である防災・減災について2015年第3回国連防災世界会議の成果文書として採択された「仙台防災枠組2015-2030」などの世界アジェンダについて触れたい.また,いま防災対策は,地域防災から地区防災へと移行しており,そこではコミュニティ単位での計画や対応に詳細化されている.さらに,個人のレベルの対策では突然に発生する災害について生き残ることさらに生き抜くことについて考えたい.最後に,将来の防災のあり方としてレジリエンスという考えを紹介し,今後も様々な災害やリスクの可能性のある状況に対する社会について伴に考えたい.
「シリーズ防災を考える」目次
1.防災および災害に関する基本
(1)防災の考え方と法改正の意義
災害と防災の定義,災害関係の法律の改正
(2)4つのフェーズに分かれる災害対応
災害対応サイクルについて,災害対応サイクルを意識した事前復興の考え
(3)災害の3要素;誘因,素因,防災力
災害の誘因と素因について,社会での対応力‐被害抑止力および被害軽減力,
ハザードマップの活用を
(4)災害文化と防災文化とその継承
東日本大震災3月11日を迎えるに当たって,災害文化と防災文化を考える,
経験と教訓を将来に伝承していく‐被災地沿岸での活動,防災啓発や教育への利用へ
2.東日本大震災と世界アジェンダ
(1)複合災害と新たな津波被害像
連鎖する複合災害,津波火災,黒い津波と都市型津波
(2)第3回国連防災世界会議と仙台防災枠組
2015年の国連の動き,国連防災世界会議について,
仙台防災枠組とは?‐4つの優先行動と7つのグローバル指標,
今年5月に実施される中間評価に向けて
3.地域防災と計画
(1)総合防災対策(ハード・ソフト・まちづくり)
ハード対策の役割と課題,ソフト対策の現状と課題,
災害に強いまちづくり―ハード対策とソフト対策の融合
(2)地区防災計画について
前回までの復習,「地区防災計画制度」創設の背景と課題,
自主的な活動を目指す地区防災計画,地区防災計画モデルの取り組み事例の紹介,
さらなる地区防災計画の発展を目指し,
【コラム】内閣府の取り組みーみんなでつくる地区防災計画の支援
地域防災計画と事業継続(BCP, BCM)
事前の防災投資,保険・保障
確率的評価とリスク,地震・水害保険,インフラ投資
4.生き残ること生き抜くこと
避難場所の指定と避難所の運営
生き残ること生き抜くこと,居住環境と食事
津波レベル1とレベル2
命と地域を守るために
5.将来の防災―レジリエンス社会の構築に向けて
予防力から対応力,そして回復力
災害情報と避難実態―災害時行動と心理学
災害情報とコミュニケーション,風評被害,正常化バイアス,避難計画・手段,認知マップ
災害科学の役割―観測,予測,評価,軽減